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高倉健さんの最も好きな代表作の一つ「駅 STATION」を紹介させてください

大好きな故・高倉健さんの最も好きな代表作の一つ「駅 STATION」を紹介させてくだ
さい。


北海道の中西端の増毛町雄冬岬などを舞台に、北海道警察本部捜査一課の刑事部
だった英次(高倉健)と、彼が関わった様々な人々との人間模様を描き出した名作です。

主人公の英次を演じる高倉健はもとより、彼が密接に関わる三人の女性を演じた倍賞
千恵子さん、いしだあゆみさん、烏丸せつこさんの演技が素晴らしく、物語世界に
どっぷりと引き込まれます。

この映画は、その英次が関わった三人の女性に焦点をあてた「1968年1月 直子」、
「1976年6月 すず子」、「1979年12月 桐子」の三つのパートで構成されています
が、それぞれのパートのエピソードが密接に絡み合い、映画の物語全体を形作ってい
ます。

監督は本作以外にも高倉健の「鉄道員も監督をつとめた降旗康男
脚本は北海道を舞台にした数々の名作を書いた倉本聰です。

■「1968年1月 直子」
冒頭、英次(高倉健)が離婚することになった妻直子(いしだあゆみ)と、4歳にな
る息子義高を雪の降り続く銭函駅ホームで見送るシーンから始まります。

英次は、仕事が多忙を極め、オリンピックの射撃選手の合宿生活が続く中で、妻直子
が起こしたたった1回の過ちをどうしても許してやることができなかったのです。

息子の義高にお弁当を買ってあげたりしますが、別れのつらさは徐々に英次と直子に
募っていきます。

やがて動き出した汽車の乗車口に立ち、直子は英次に笑って敬礼しようとするのです
が、つい、目には涙が溢れてしまいます。

このシークエンスのいしだあゆみさんの演技はまさに「迫真」としか言いようのない
見事なものです。

このパートで、検問中に、英次の上司・相馬(大滝秀治が英次の目前で連続警察官
射殺犯「指名22号」の森岡茂室田日出男に射殺されるという重要なエピソードが
描かれます。

■「1976年6月 すず子」
冒頭は英次の故郷の雄冬で、英次の妹・冬子(古手川祐子)が、愛する英次の幼馴染
みの義二とではなく、伯父の勧めた見合い相手である北見枝幸に住む男と結婚する
シーンで始まります。

その頃、英次はオリンピック選手を退き、捜査の傍らオリンピック選手の強化コーチ
をしていました。

そして当時発生していた赤いミニスカートの女だけを狙う連続通り魔の犯人を追って
います。

そして、増毛駅前の風侍食堂で働く吉松すず子(烏丸せつこの兄・五郎(根津甚
八)がその犯人として走査線上に浮かびあがってきます。

ふと、すず子を尾行する英次のもとへ、突然コーチ解任の知らせが届きます。
スパルタ訓練に耐えられなくなった選手たちの造反でした。
こんなエピソードも英次の人となり、そして彼の苦悩を垣間見せてくれます。

すず子はチンピラの雪夫の子を堕しますが、それでもすず子は雪夫に好意を寄せてい
ます。

そして警察は簡単に協力を申し出た雪夫を利用し、彼の手引きで、雪夫とすず子の待
つ駅に現れた五郎を誘い出します。
そして五郎は待ち伏せた警官隊に囲まれてしまいます。

■「1979年12月 桐子」
いよいよ一番のメインパート「1979年12月 桐子」です。

英次のもとに旭川刑務所に服役していた吉松五郎から、刑の執行を報せる手紙が届き
ます。
4年の間、差し入れを続けていた英次への感謝の手紙でもありました。
こんなエピソードも英次の誠実な人柄を垣間見せてくれます。

英次は正月の帰省のため、雄冬への連絡船の出る増毛駅に降りたちます。

英次は警察官を辞する決意を固めていました。

そして、荒天による連絡船の欠航で足止めを食った英次がふと入ったのが増毛駅の近
くで赤提灯を灯す小さな居酒屋「桐子」です。

英次が何度か増毛駅で人を待っている様子を見かけていた桐子(倍賞千恵子)がひと
りで営む店でした。

ここからがこの映画の英次(高倉健)と桐子(倍賞千恵子の独壇場となります。

観客は、本当に増毛の小さな居酒屋で初対面の二人が出会ったとしか思えないやり取
りを目の当たりにします。

初対面の二人が会話によって徐々に距離を縮めていく見事なシーケンスです。

長くなって恐縮ですが、二人のすべての会話を忠実に掲げます。

英次「熱いの一本もらおうか。」
桐子「はい。」
英次「しばれてきたねえ。」
桐子「そうねえ。」
英次「30日までやってるなんてめずらしいんじゃない?」
桐子「え、そうお?」
英次「他の店はほとんど閉めてるよ。」
桐子「ねえ、烏賊食べてみない?」
英次「え?」
桐子「さっき炊いたの。美味しいわよ~。ちょっと食べてみて。」
桐子「強制的に食べさすの、私。」
英次「他の客が来ないんで、残ると困るからだろ?」
桐子「あは、ずばり。こういう時に見えた方は神様。」
英次「たいした神様じゃないぜ。」
桐子「たいしたことなくても、神様は神様よ。」
桐子「ここの人?」
英次「いや。雄冬だよ。」
桐子「ああ、船町か。」
英次「そう。あんたは?」
桐子「ん?」
英次「元々、ずっと増毛?」
桐子「ううん。歌登(うたのぼり)。」
英次「歌登・・・。」
桐子「知ってる?」
英次「音威子府(おといねっぷ)から入るんでしょ?」
桐子「あらぁ、よくご存じ。」
英次「あっちのほうに妹が行ってたんでね。」
桐子「はあ!どこ?」
英次「北見枝幸(きたみえさし)。」
桐子「へえ~。結婚して?」
英次「そ。」
桐子「あらぁ!本当~。」
桐子「(お燗を確かめながら)ぬるいかなぁ。ちょっと一杯やってみて。」
英次「(見回して)おちょこが無い。おちょこ。」
桐子「あ・・・。ごめんなさい。」
桐子「(振り返って)コップのほうがいいんじゃない?コップ。」
英次「そうね。」
桐子「(コップにぬる燗を注いで)どう?」
英次「いいよ。」
英次「一杯どう?」
桐子「まあ!ありがと。」
英次「(盃をさがす桐子に)コップのほうがいいんじゃない?」
桐子「え?(コップを探して)はい、はいどうも。」
(二人でぬる燗のコップを合わせて)
桐子「乾杯!!」
桐子「ああ!!美味しい! もう一本お燗付けとくね。」
英次「ああ。」
英次「昼間さ。駅にいたでしょ。」
桐子「まあ! ええ、どうして知ってんの、あんた?」
英次「見てたの。」
英次「一回見りゃ忘れないよ、いい女。」
桐子「(見る見る笑顔が広がって)お芋の煮っ転がしもサービスしちゃう!」
英次「旦那の帰りかい?待ってたの?」
桐子「え? 何? はは! よしてよ~。旦那なんていないわよ~。」
桐子「独りよ~。独身よ~。・・・んふふ。まだ処女。・・・くく、この歳で処女っ
てことはないか。」
桐子「はい、おまちど。(食べる英次を見て)美味しい?」
英次「うまい。」
桐子「正直に言って構わないからね。」
桐子「(黙々食べる英次を見ながら)あんたは?」
英次「何が?」
桐子「雄冬で奥さん、待ってるわけ。」
英次「いないよ。」
桐子「嘘つけ~。」
英次「ずっと前に・・一時居た時あったけどね。」
桐子「別れた?」
英次「そう。」
桐子「いつ頃?」
英次「もう・・10年以上前かな。」
桐子「以来独身?」
英次「そう。」
桐子「ま・・・そのほうが気が楽ってこともあるしね。」
英次「お正月も・・・故郷に帰らんかい? まだ誰かいるんしょ。歌登に。」
桐子「いるわよ・・・。いるからね・・・。」
(つけっぱなしのTVからやがて八代亜紀の「舟唄」が流れてきて)
桐子「あ! 八代亜紀! この歌好きなの私。」
桐子「いいね。これ。」
桐子「(矢代亜紀に合わせて)お酒はぬるめの燗がいい。肴はあぶった烏賊でいい。
女は無口な人がいい。・・・」
桐子「去年の正月・・・私の友達、札幌のアパートでガス自殺してね。」
桐子「1月3日。」
桐子「すすき野のバーに務めてた子。」
桐子「知ってる?」
英次「何が?」
桐子「水商売やってる子にはね、暮れから正月にかけて自殺する子が多いの。」
桐子「なぜだかわかる?」
英次「いや。」
桐子「男が家庭に帰るからよ。」
桐子「どんな遊び人も・・・この時期は家庭に帰っちゃうからね。
桐子「つらいのよ・・・。そうなると急に。」
桐子「ね!明日さ!連絡船出なかったら。留萌に一緒に映画見に行かない?」
英次「・・・・。」
桐子「いらいらしてたって、はじまらないっしょ? ね?」

こうして、翌日の大晦日、連絡船は出ず、英次と桐子は留萌に一緒に映画を見に行く
ことになります。

二人は留萌の映画館で香港映画の「Mr.Boo!」を見て、食事をして、そして二人は男
と女の関係になるのです。

そして、大晦日の夜、ホテルで所在無げにしていた英次に桐子から電話があります。
お店で一緒に紅白歌合戦を見ようというのです。

英次が「桐子」に行くと、酒と肴が用意されています。

二人は肴を交わし、やがて夜も更けていきます。

二人仲睦まじく紅白歌合戦を見るのですが、映画のポスターやブルーレイの表に使わ
れている画像はこの場面です。
もはや英次(高倉健)と桐子(倍賞千恵子は本当の恋人同士ではないかと思うほど
です。

二人は初詣に出かけます。
そして、英次は、道陰で桐子を見つめる一人の男に気づきます。桐子はなぜかこの男
の後を追います。

英次が雄冬に帰りついたのは、元旦も終ろうとしている頃でした。
そこで、弟の道夫(永島敏行)から直子と17歳になる息子義高のことを聞き、ふと直
子に13年ぶりに電話をかけます。
13年の歳月を経て、英次もようやく池袋のバーでホステスをして義高を育てている直
子を許す気持ちになったのでしょうか。

雄冬の帰り、桐子は、札幌へ帰る英次を見送りに来ていました。

そこへ「指名22号」の森岡茂室田日出男のタレコミがあります。
「指名22号」の手配写真は初詣の時、道陰で桐子を見つめていた男でした。

英次は増毛に戻り、桐子のアパートを探します。
桐子のアパートを訪ねると、果たしてそこには「指名22号」森岡茂が潜んでいまし
た。
慌てて隠し持っていた拳銃の銃口を向ける森岡でしたが、英次の拳銃で射殺されま
す。

桐子は森岡を警察に通報しながらも、彼をかくまっていたのです。

札幌に戻る前に英次はそのままでは立去りがたく、桐子の店を訪ねます。

しかし桐子は英次に背を向け素っ気ない態度を解きません。

やがてテレビから流れてきた「舟唄」に桐子は英次に背を向けたまま思わず涙を流し
ます。

英次は忍ばせていた辞職願を破り、駅のストーブにくべると、空しく、札幌に戻る列
車に乗ります。

そこに八代亜紀の「舟唄」が、英次や桐子の心情を物語るように切々と流れていきま
す。

見事なラストシーンでした。

この映画は高倉健倍賞千恵子さん、いしだあゆみさん、烏丸せつこさんなど俳優陣
の演技の素晴らしさと、脚本の巧みさ、舞台になる北海道の風景などが相まって、物
語世界にどっぷりと引き込まれる、日本映画を代表する名作です。

もしまだ未見の方がいらっしゃればぜひご鑑賞あれ。